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さまざまな職場や職務を経験する「ジョブローテーション」。社員は数年にわたり社内の複数の部署をめぐります。今回は、ジョブローテーションの目的について見てみましょう。 

■ジョブローテーションとは

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一定の期間、ある部署で働くことを繰り返し、さまざまな知識や経験を積んでいく「ジョブローテーション」。計画的に仕事を経験させて、総合的に判断できる人を材育成するために行われています。「ジョブローテーション」について、詳しく見てみましょう。
 
●ジョブローテーションの目的
人材育成のために行われる「ジョブローテーション」。人事担当者は、何のためにジョブローテーションを行うのかを明確にし、社員を育成しなければなりません。ジョブローテーションの目的は、次のようなものです。
 
○人材育成
社員一人ひとりの人材育成を目的として行われます。社員の成長段階によって変化しますが、社員の能力開発、マルチタスク化、人材交流や適切な人材配置の判断材料、幹部候補生・管理職の養成、モチベーションの向上などのために行われます。
 
・新人の育成――企業全体を把握させる
特に新入社員は、各部署で何をしているのか、部門ごとの課題は何かなどは、話を聞いているだけでは、なかなか全体像はつかめません。各部署で働いてみることで、業務に対する理解が深くなり、部署間のつながりも把握できるようになります。また、経験を積むとともに新たな視点で仕事が見えてくるようになるため、当事者としての問題意識も生まれてきます。
 
・幹部候補の育成
ジェネラリストとしての経営幹部候補の育成を目的としたジョブローテーションは、日本の終身雇用形態に合わせて進化してきました。新入社員のうちから長い時間をかけて、社内事情を理解したり、社内外の人脈を築いたりして、さまざまな経験を積ませる背景があります。
 
○属人化の防止
ある社員にしかできない仕事があり、その分量が多ければ多いほど、その社員の負担は大きくなります。休暇をとることもできず、社員の多様な働き方を阻害していることになります。属人的にならざるを得ない職種もありますが、業務が属人的であるということは、「人」に依存をした業務体制ということです。例えば営業の人材が配置転換や退職した際に、引継ぎができず業務が滞ったり、取引先が離れてしまったりするなどの可能性があります。また同じ取引先の担当者と長期間つきあっていると、関係性が属人的となり、本来あるべき企業間取引を逸脱した行為を行ってしまう(癒着やミスの隠ぺい)リスクもあります。そのようなリスクを避けるために計画的にローテーションを行うこともあります。
 
●ジョブローテーションの適切な期間
ジョブローテーションは、単純に一定の期間、仕事を経験すればよいというわけではありません。対象ごとに、適切な期間を見てみましょう。
 
○新入社員(新卒・中途)の場合
入社後1~2年の間に、さまざまな職場を経験します。就職・転職活動の際は、ある程度仕事のイメージはできているものの、具体的な仕事内容までは理解できていません。また、部署間のつながりも把握ができていないことが多いため、この期間に仕事の流れや会社全体の動きを理解します。
 
○幹部候補社員の場合
異動は3~5年と比較的長めになることもあります。これまでの経験や適性を踏まえて仕事に就くことで、社員が持っている能力を最大限に発揮できるようなジョブローテーションが組まれます。
 
●ジョブローテーションと人事異動との違い
ジョブローテーションとは、人材育成の目的から、計画的にまた定期的に社員が職場を異動したり、職務を変更したりすることです。さまざまな部署で経験を積むことで、社員の知識の充実やスキルアップを図ります。蓄積した経験や知識を活用することにより、他部署との連携を強めたり、仕事を効率よく進められたりするようになります。
 
それに対して人事異動とは、社員が企業の命令により、配置・地位や勤務状態などが変更されることを指します。これには昇給・昇格はもとより、降級・降格、役職の転換や解任、出向や転籍といった企業間での異動も含まれています。また、顧客との癒着防止のための配置転換といった面もあります。
 
比較的長い時間をかけて、人材育成のために行う「ジョブローテーション」。人事担当者は、会社として、どのような人材を育成するかを経営層や部門長とも連携して計画していく必要があります。 

■ジョブローテーションの現状

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近年ジョブローテーションを実施している企業の割合はどれくらいなのでしょうか。
独立行政法人の「企業における転勤の実態に関する調査 調査結果の概要」によると、調査対象の企業のうち、ジョブローテーションを導入している企業は53.1%でした。正社員規模別に見ると次のようになっています。
 
・300人未満(37.3%)
・300~500人未満(51.3%)
・500~1000人未満(57.2%)
・1000人以上(70.3%)
 
企業規模が大きくなるほど、ジョブローテーションを行う割合が高いということがわかります。ジョブローテーションの目的が「人材育成」ということを考えると、人材が育つことを待っていられるだけの体力がある大企業のほうが導入率が高いということはうなずけます。さらに、毎年「新卒採用」があるような規模の企業が、積極的に実施しているということも考えられます。なぜなら新卒社員は、将来の幹部候補や幅広いキャリアを備えた人材に育つ可能性が高いからです。
 
また、規模の大きな企業では、部署も複数あり、大人数の社員が就業しています。それぞれの部署で仕事を進めているだけでは、大規模な案件は動かせません。仕事効率も悪くなってしまいます。そこで、ジョブローテーションでの経験や知識、人脈を活用することにより、仕事の活性化や業務改善が行われやすくなります。

■ジョブローテーションのメリット、デメリット

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次に、ジョブローテーションのメリット、デメリットを企業・人事側、社員側それぞれから見てみましょう。
 
●企業・人事
 
<メリット>
○部署間の関係性・風通しが良くなる
お互いの仕事を把握できているため、どのようにしたら仕事が効率的に進むのかを理解して行動できます。そのため、部署間は良好な関係性を保って仕事ができます。
 
○社員の適性を見極めやすい
社員がさまざまな部署で仕事を経験するため、現場からのフィードバックや本人の意思から、社員の適性を見極めることが可能となります。データを収集し、管理していけば、本人の適性に合った部署に配属できるようになります。
 
○幅広い業務の理解、総合的な仕事の判断
幹部が現場を知っていることは強みになると考えられます。ゆくゆくは経営を担う優秀人材を、さまざまな現場でジョブローテーションをさせることで、各部署への理解が深まり幹部になった際に、そこでの経験や知識や考え方が役立つとされています。
 
<デメリット>
○教育に時間と工数がかかる
ジョブローテーションは、多くの企業で3年くらいのスパンで行われるとされています。さまざまな部署を回り、仕事を覚えるとなると、教育にはかなりの時間と工数、そしてコストがかかるといえるでしょう。短期退職する社員が多い場合は、そのコストが回収できず、効果が乏しい結果となります。
 
●異動する社員
 
<メリット>
○視野が広がり経験値が高くなる
社員は、さまざまな職務や部署を回るため、経験値が高くなります。また視野も広がります。そして、さまざまな経験をすることで、自分でも気づかなかった適性を発見することができます。
 
○ネットワークの構築
社員はさまざまな部署を経験することにより、異動した先々で新しいネットワークが構築できます。人間関係が良くなるだけでなく、仕事の連携もできるようになり、業務がスムーズに運ぶようになります。
 
○ジェネラリストになりやすい
さまざまな部署や経験をすることで、部署を横断して総合的に判断できるようになります。専門的な判断はできなくても、大きな枠組みから物事を考えられるジェネラリストや管理職としての適性が磨かれます。
 
○モチベーションアップ
ジョブローテーションに組み込まれた社員は、「幹部候補の一人である」という企業からのメッセージを読み取り、モチベーションを向上させて働きます。
 
<デメリット>
○スペシャリストになりにくい
ジョブローテーションは一定の期間で異動を行うため、スペシャリストにはなりにくいものです。せっかく仕事に慣れてきたという頃に異動するため、業務の深層部までを理解することはなかなかできません。
 
○望まない異動→モチベーションダウン
社員は自分の適性がわかり、「この仕事が楽しいから、もう少し続けたい」と思っても、一定の期間で異動しなければなりません。また逆に「やりたくない仕事」だと思っても、一定の期間はやり続けなければなりません。さらに、部署の人員が足りていない場合でも、社員は異動となるため、モチベーションが下がる可能性があります。
 
企業・人事側、社員側それぞれからのメリット・デメリットを見てきました。ジョブローテーションは、「定期的な異動」ということが、メリットにもデメリットにもなるので、適性を見極めるのがカギと言えそうです。
 
●ジョブローテーションに向いている企業、不向きな企業
「ジョブローテーションの現状」でも見たように、ある程度の規模がある企業のほうが実施しやすい傾向にあります。
一般的に、ジョブローテンションが向いている企業、不向きな企業は次のような特徴があります。
<向いている企業>
・大企業
・業務に一連の流れがある
 
<不向きな企業>
・専門性が高い
・知識や技術などの習得に時間がかかる
・長期的なプロジェクトを請け負う
 
ジョブローテーションにより、仕事の全体の流れを理解し、自社のどこの部署が何をしているのかを把握していることで、業務をスムーズに進めることができるようになります。また、さまざまな現場の業務を経験したうえで、本部の仕事を行うと、指示を出しやすい、現場との連携がとりやすいということになります。
 
逆に、専門性が高く、知識やノウハウが重要となる企業では、ジョブローテーションは不向きであるといえるでしょう。しかし、不向きな企業でも、他の部署の事を理解しておくことで、効率的に仕事を進められるということは変わりません。そこで、実際に経験まではしなくとも、他の部署の仕事を把握するための勉強会を開いたり、コミュニケーションを密にとったりするということで対策は可能です。
また、部署内でジョブローテーションを行っている会社もあります。人数の少ない企業では不意にマンパワーが不足することもあります。部署内ジョブローテーションを行い、他の社員もこなせる仕事にしておくことで、通常ならば一人できる仕事も、繁盛期や社員の急な休みなどにも備えておくことができます。 

■ジョブローテーションの今後

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2016年の「働き方改革」の影響で、「社内公募制度」や「社内FA制度」というあらたな人事異動に関する制度も増えてきているのでご紹介します。
 
●社内公募制度
社内公募制度とは、企業内の部署が必要としているポストや職種の要件を社員に公開し、その条件にあてはまる社員が応募できる人材登用のしくみです。応募者と募集部署の上長などが面談をし、採否が決まります。
 
●社内FA制度
希望する職種や職務の登録を行い、社員が自らのキャリアやスキルを売り込み、人事異動を試みます。社内公募が職種や職務の公開があってから応募するのに対し、自ら発信者となるのがFA制度となります。プロスポーツにあるFA制度が企業内で行われているということです。
 
「社内公募制度」や「社内FA制度」は、自ら応募して異動するというところが「ジョブローテーション」とは異なります。これらを導入することで、社員が職場や仕事の内容を選択できようになり、社員のやる気を上げ、生産性も高まる効果があります。
 
 

ジョブローテーションの目的とメリットに注目

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人材育成のため、仕事を属人的にしないためという目的で行われているジョブローテーション。ジョブローテーションを行うメリットに注目し、社員のモチベーションアップ、生産性の向上につなげてみてはいかがでしょうか。