パワハラのない社会を目指す人たちのイメージ

厚生労働省が公表している「パワーハラスメント対策導入マニュアル」では冒頭で以下のように述べています。

「職場のパワーハラスメントが与える影響は深刻です。職場は、私たちが人生の中で多くの時間を過ごす場所であり、様々な人間関係を取り結ぶ場でもあります。

~中略~

職場のパワーハラスメントは、受ける人だけの問題ではありません。周囲の人たちがそうした事実を知ることで、仕事への意欲が低下し、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼす可能性があります。」

このように、企業にとってさまざまなリスクとなるパワハラの影響と、具体的な対策方法についてご紹介します。

■パワハラの定義と事例

具体的にどのような行為がパワハラに該当するのでしょうか。パワハラの定義と事例について確認してきましょう。

●パワハラとは

パワハラは法令上、明確に定義されていません。同省では指針や提言の中で、職場のパワハラを以下のように定義しています。

「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。」

○職場内での優位性とは

上司から部下への行為を指すことが多い傾向にありますが、職務上の地位に限らず、人間関係や専門知識、経験などの優位性も含まれます。従って、上司から部下への行為だけではなく、同僚間や部下から上司への行為など、職務上の地位に関係なくパワハラは存在します。

○業務の適正な範囲

業務上、必要な指示や指導に対して不満を感じる場合でも、業務の適正な範囲で行われる行為であればパワハラにはなりません。例えば上司から部下に対して、業務上、必要な指揮監督や教育指導を行いますが、それは上司としての適正な権限の発揮であり、上司としての役割です。

職場でのパワハラ対策としては、何が適正な業務の範囲内なのかを明確にしておき、必要な指示や指導をサポートすることが求められます。

●パワハラの種類と事例

同省ではパワハラを下記の6類型に分類をしています。

 

①身体的な攻撃

②精神的な攻撃

③人間関係からの切り離し

④過大な要求

⑤過小な要求

⑥個の侵害

 

各類型の具体的な行為と事例をご紹介します。

①身体的な攻撃

暴行や傷害にあたる行為。殴る蹴るなど体に危害を加える行為はもちろん、丸めたポスターで頭を叩く、紙など物を投げつけ威嚇する行為もパワハラに該当します。

【事例】

「部下の背中を殴打し、面談中に膝を足の裏で蹴ったりした」
※東京地裁平成22年7月27日判決

判決では、パワハラを行った上司に慰謝料の支払いを命じ、会社の使用者責任も認めました。

②精神的な攻撃

脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言にあたる行為。業務の指示の中であっても、暴言や懲罰的な指示は業務の適正範囲を超えたパワハラに該当します。

【事例】

「“不要な人間なのに会社にいられることに感謝していない”などと怒鳴りつけた」
※東京地裁平成25年1月30日判決

判決では、パワハラを行った同僚(同僚ではあるが実質的に指揮命令できる立場にあったと認定)に200万円の慰謝料の支払いを命じました。

③人間関係からの切り離し

隔離、仲間外れ、無視にあたる行為。仕事を円滑に進める上で必要のない無視や仲間外れなど、個人を疎外する行為はパワハラに該当します。

【事例】

「自分の会社がかかわるヤミカルテルの存在をマスコミに告発したところ、その後20数年にわたり、教育研修所の配属となり、離れた個室に席を配置され、送迎等の雑務しか与えられなかった」
※富山地裁平成17年2月23日判決

判決では、会社に1,357万円の損害賠償の支払いを命じました。

④過大な要求

明らかに遂行不可能なことの強制や、仕事の妨害などの行為はパワハラに該当します。

【事例】

「精神疾患による病気休業明けにもかかわらず、教員免許外科目である国語科を担当させ、加えて特別研修の受講もさせた上、その他の業務の軽減もなかった」
※鹿児島地裁平成26年3月12日判決

判決では、校長、教頭、教育委員会、指導官らの一連の行為と被害者の精神疾患の憎悪に相当因果関係を認め、県および市に合計4366万7487円の損害賠償の支払いを命じました。

⑤過小な要求

業務上の合理性なく、能力や経験から程遠い仕事を命じたり、仕事を与えない行為はパワハラに該当します。

【事例】

「仕事でミスをしたバスの運転士に対し、その後、期限を示さず炎天下での過酷な除草作業を命じた」
※横浜地裁平成11年9月21日判決

判決では、会社と営業所所長に対し60万円の慰謝料の支払いを命じました。

⑥個の侵害

業務の適正な範囲を超え、過度に私的なことに立ち入る行為はパワハラに該当します。

【事例】

「“先輩の自宅掃除・買い物・子どもの世話・風俗店への送迎をさせられた、交際相手とデート中に仕事と偽って勤務先に呼び出された、勝手に交際相手にメールを送信された”など」
※さいたま地裁平成16年9月24日判決

判決では、パワハラを行った先輩に合計1000万円の慰謝料の支払いを命じ、会社には内500万円について支払いを命じました。

 

職場でパワハラ事案が発生した場合は、人事部など担当部署は上記のような定義と類型に照らし合わせ、事実関係の把握の上、パワハラの判断をすることとなります。

 

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■職場におけるパワハラの影響 

パワハラに悩む人のイメージ

パワハラは相手の人権を無視した不快感を与える行為であり、人権問題の一つです。また、労働環境の悪化を招いたり、従業員の意欲や権利を侵害する労働問題でもあります。パワハラが引き起こす、被害者と加害者、発生した企業への影響は、主に下記のようなことが考えられます。

●被害者への影響

パワハラ事案が発生した際、被害者はやる気や自尊心の低下、メンタヘルスの変調などの影響が懸念されます。仮に裁判となった場合、人格権の侵害などが認められる場合があります。

●加害者への影響

加害者への影響としては、社内における信用の失墜に加え、社内規定に則りパワハラと認定された場合は懲戒処分が予想されます。また、刑事責任の追及や損害賠償義務が発生する場合があります。

●企業への影響

パワハラは、従業員の定着率の低下や人材流出などの人的損失の発生、職場環境の悪化を招く恐れがあります。仮にパワハラ事案が社会に明るみとなった場合、企業イメージの悪化と、それに伴う経済的損失は計り知れないものがあります。裁判となった場合は、使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違による債務不履行責任(民法415条)が問われ、損害賠償責任や訴訟費用の発生が予想されます。

■職場におけるパワハラの原因 

平成30年3月に同省から公表された「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会 報告書」によると、パワハラの原因や背景には次のようなものがあります。

●従業員同士のコミュニケーションの希薄化

日常的な会話をはじめ、定期的な面談やミーティング不足など、コミュニケーションが少なく風通しの悪い職場環境では、上司と部下、同僚同士といった従業員同士の信頼関係が構築されず、パワハラが発生する温床となる場合があります。

●従業員個人の能力の問題

従業員個人の能力不足によって、パワハラが発生することがあります。

パワハラをする側の、感情をコントロールする能力やコミュニケーションスキル、マネジメント・指導スキルの不足、精神論偏重や完璧主義など固定的な価値観、多様性への理解の欠如が背景にある場合があります。また、パワハラの受け手側についても、一部には社会的ルールやマナーを欠いた言動が原因となっている場合もあります。

●ストレスのかかる職場環境

業績変調の評価制度や長時間労働、不公平感を生み出す雇用形態、不適切な作業環境など、従業員に大きなプレッシャーやストレスがかかる職場環境がパワハラの原因となっている場合があります。

■職場でのパワハラを防止する対策

パワハラ対策を講じる人のイメージ

厚生労働省は2018年に厚労相の諮問機関である労働政策審議会へ、パワハラ対策についての報告書を示しました。この中で、職場におけるパワハラの防止措置を企業に義務付けるための法整備を進める方針が示され、了承されました。同省はこの報告書をもとに法案を作り、2019年通常国会への提出を目指します。

具体的な内容はこれから整備されることになりますが、企業が講ずべき措置として、パワハラが発生した場合の対処内容についての就業規則などへの規定、相談窓口の設置、相談者などのプライバシー保護のための措置などが盛り込まれる見通しです。これにより、従来は指針やガイドラインで示されてきたパワハラ対策が、法律によって強化されることになります。

●企業としての対策

現在、同省では「パワーハラスメント対策導入マニュアル」(第2版)で、職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた取り組みをガイドラインとして示し、次のような7つの取り組みの実施を推奨しています。

1. トップのメッセージ

  • 全社的に取り組む課題としてトップから発信しましょう。
  • 重要性と、その理由を伝えましょう。

組織としての方針を明確にすることで、尊重し合いながら仕事を進めたり、従業員からパワハラに関する発信がしやすくなります。

2. 社内ルールを決める

  • 効果的に労使一体で取り組みを進めるために、ルールを明確化しましょう。
  • 従業員にとって分かりやすく具体的なルールを定めましょう。
  • 事前に労働組合や従業員の代表などと意見交換をした上でルールを決めましょう。
  • 従業員への説明会や文書の配布による周知は必ず実施しましょう。

パワハラを行ったものについては懲戒規定などに基づき厳正に対処する旨を定めます。詳細な規定を定めたい場合は、就業規則に委任の根拠規定を設けて「パワーハラスメント防止規程」を定めることも有効です。

3. 社内アンケートで実態を把握

  • アンケートの対象者が偏ることがないようにしましょう。
  • 正確な実態把握や回収率向上のために、匿名での実施をしましょう。
  • アンケートと合わせて相談窓口も紹介しましょう。
  • 安全管理者や産業医によるヒアリングやなども実態把握の有効手段です。

調査手法としては、紙や電子ファイルでの実施に加え、インターネット上で実施する仕組みもあります。

4. 管理職向けの研修・一般従業員向けの研修

  • 教育のための研修は漏れなく、全員が受講できるようにしましょう。
  • 管理監督者と一般従業員に分けた階層別研修の実施が効果的です。
  • 研修内容には、トップのメッセージやルールを踏まえた具体例を加えると効果的です。

5. 社内での周知・啓蒙

  • 計画的かつ継続した周知を実施しましょう。

6. 相談窓口の設置、相談対応

  • 相談者の秘密を守ること、窓口での対応範囲を明確にしましょう。

7. 再発防止

  • 予防策に継続的に取り組むことが再発防止につながります。
  • 取組内容の検証・見直しを行える体制づくりを心がけましょう。

●企業としての対策事例の紹介

◯サイバーエージェント社

サイバーエージェント社では3ヶ月に1回「リスクGEPPO」という取り組みを行い始めています(より詳しく聞きたい方はこちらのHPよりお問い合わせください)。ビジョンとして掲げている「21世紀を代表する企業」を目指し、模範的な存在となるべく、より一層のコンプライアンス強化を図り、潜在するリスク要因に対して先手を打つための仕組みです。

具体的には社内の気になるポイントや、従業員が考えるリスク要因などが回答できるアンケートになっており、「言いたいけど公には言えない声」を吸い上げることに役立っています。

まだ数回の取り組みですが、第一回目の取り組みでは、約4,000名からの回答と、約1,000名からのコメントを取得しており、会社に内在するリスクに対し、社員全員で向き合い、先手を打って対応することができています。

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◯大手エネルギー会社の子会社X社

大手エネルギー会社の子会社のX社では、社内の相談窓口の設置に加え、第三者に相談したいというニーズに対応するため、社外の相談窓口として専門機関と委託契約をしています。加えて全社員を対象とした社労士の講演を開催したり、玄関や会議室に啓発ポスターを提示したりすることで、ハラスメントを全社員の共通の課題として認識しやすい職場環境を作っています。

◯ロジスティックス事業を展開するK社

全国に事業所があるK社では誰でも携帯から本社に相談ができる仕組みが作られています。また、社内にはられているポスターにQRコードが記載されており、そこからハラスメントに関するアンケート画面につながるようになっています。書き込んだ内容が上司を経由せず本社の窓口に届く仕組みとなっているのです。本社がハラスメントについて把握しているということが、会社全体においてハラスメントに対する抑制効果として発揮されています。

■従業員の人権を守るパワハラ対策の社内体制整備を

従業員をパワハラから守るイメージ

パワハラは被害者に精神的ダメージを与えるだけでなく、職場の雰囲気を悪化させるなど、さまざまな悪影響をもたらします。パワハラ被害が増加傾向をたどる中、メンタルヘルスケアが義務化されたように、今後はパワハラ対策のため社内体制の整備の義務化が予想されます。

従業員の人権を守り、企業の将来のリスクを回避するためにも、パワハラが起きないような対策方法を検討し、従業員が働きやすい環境を作ることが大切です。 

 

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