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ハラスメントは、相手の尊厳を傷つけたり、不利益を生じさせる嫌がらせ行為で、社会生活のさまざまなシーンで発生する恐れがあります。特に職場でのハラスメントは、当事者間の問題と矮小化するのではなく、企業と個々の社員が実態を認識して、職場環境改善や企業全体のハラスメント対策に取り組む必要があります。
 
今回は、ハラスメントが職場に与える影響をはじめ、どのような行為や言動が職場でのハラスメントにあたるのか、発言例や行為例を具体的に挙げてご紹介します。
 
 

■職場でのハラスメントが社員に与える影響

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職場におけるハラスメントは、社員の生産性が低下したり人材の流出を引き起こしたりするなど、社員が能力を十分に発揮できないことにつながり、会社として大きな損失になります。そのため、ハラスメントの意味を理解した上で、未然の防止を図り適切な措置が取れるようなハラスメント対策を講じることが重要です。
 
●ハラスメントは「働く人の尊厳と人格を侵害する行為」である
ハラスメントのもともとの意味は「迷惑行為」や「嫌がらせ」です。社会的に注目を集めている近年では、人間としての尊厳を傷つけ、人格を侵害し、思いやりと敬意を欠いた行為として、広義な意味で「人権侵害」としてもとらえられています。
職場におけるハラスメントの被害者は、人格を傷つけられることで仕事への意欲や自信を喪失します。メンタル面に及ぼす悪影響は大きく、精神疾患を引き起こす原因にもなり得ます。
 
●ハラスメントが職場や企業に及ぼす影響
ハラスメントは、被害者と加害者の当事者間だけに影響がある問題ではありません。一緒に働く職場の他の社員にも影響を及ぼします。
例えば、近くでハラスメントを受けている同僚の姿を見ることが、他の社員にも大きなストレスになります。「次は自分が被害者になるかも…」と思うことで業務に集中できなくなったり、必要な業務報告や相談もできない、風通しの悪い職場環境が形成されます。時には、健康不安や命の危険にさらされる場合もあります。
こうした職場環境の悪化は、職場全体の生産性や意欲の低下をもたらし、当事者の家族や周囲にも「あの企業ではハラスメントがある」といったイメージの悪化を招くことになります。
 
●世界で進むハラスメント対策
ILO(国際労働機関)は、国際基準の設定(加盟国による条約批准)に向け、職場でのハラスメント対策についての議論を進めており、2018年6月には「仕事の世界における暴力とハラスメント」基準設定委員会の報告を採択しました。2019年に開催されるILO総会では条約採択を目標としており、採択されれば、加盟国の日本でも国会へ条約批准が諮られることとなります。
ハラスメント対策は、「#MeToo運動」が世界中で広がりを見せているように、世界共通の課題として取り組みが進んでいるのです。
 

■ハラスメントの成立条件・判断基準

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日本では現在、「ハラスメント」について法的な定義はありません。しかし、厚生労働省や各地方自治体、教育機関などがハラスメント対策のために発表しているガイドラインを通して、そのとらえ方を読み取ることができます。
どのような行為がハラスメントとなるのか、その成立条件のポイントは次の通りです。
 
・被害者が、加害者の言動によって不快になったり、尊厳を傷つけられたりしている
・加害者が、被害者に不利益な行動や脅威を与える行動をしている
・加害者が「一般的には許容される」という主観を持っていても被害者に害があればNG
 
加害者が「これぐらいは問題ない」と思っていても、被害者本人にはストレスとなっていることはよくあります。ある行動や言動が、不快かどうかや脅威と感じるかどうかなどは個人差が大きいものですが、たとえその行為を受けた本人が「応じて」いても、本人が「望まない」行動や言動であれば、ハラスメントに該当する恐れがあるケースと言えます。
 
 

■調査データから見る職場におけるハラスメントの実態

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職場におけるハラスメントは、実際どのくらい発生しているのでしょうか。国や労働組合が実施した調査データを2つご紹介します。
 
●従業員の3人に1人は職場でのパワー・ハラスメント被害経験者
2016年に厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にパワー・ハラスメントを受けたことがあると答えた人は32.5%でした。つまり、3人に1人はパワハラを受けたことがある経験者ということになります。
初めて調査が行われた前回2012年の同回答は25.3%だったため、4年前と比べて7.2ポイント増加しています。
 
●5割超の従業員はハラスメントを受けた経験または見聞きしたことがある
2017年に連合が実施した「ハラスメントと暴力に関する実態調査」によると、職場でハラスメントを受けたことがある、または見聞きしたことがある人の割合は56.2%でした。男女別に見ると、男性では54.4%、女性では58.0%となっています。
誰からハラスメントを受けているのかについては、いずれのハラスメントでも「上司や先輩」から受けていると回答した人が最も多くいました。
ハラスメントの種類別で見ると、「パワハラなどの職場のいじめ・嫌がらせ」が最も多く45.0%、「セクシュアルハラスメント」が41.4%、「マタニティハラスメント」が21.4%でした。
 
 

■職場における主な「〇〇ハラ」の種類

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ハラスメントにはいろいろな種類があり、法令上、明確に定義されているハラスメントから、近年、社会問題化したことで国が対策に取り組みはじめたもの、テレビや雑誌などのメディアで話題として取り上げられるものまであります。
また、ハラスメントが発生する「職場」とは、業務を遂行する場所であれば事業所内に限らず、出張先、取引先、社用車の車内も「職場」に含まれます。勤務時間外の飲み会などであっても、参加の強制や職務との関連性がある場合は勤務の延長として「職場」とみなされる場合もあります。
 
厚生労働省が発表している指針や公的機関などによるガイドラインで触れられている主なハラスメントの種類と意味は次の通りです。
 
●セクシャル・ハラスメント(セクハラ)
セクシャル・ハラスメントは、相手方の意に反する性的な言動のことを言います。言動で周囲を不快に感じさせたり、相手の対応によって仕事で不利益を与えたり、性的関係を強要するといった行為が当たります。男女ともに被害者にも加害者にもなり得るハラスメントで、異性に対するものだけでなく同性への言動も対象となります。
 
○男女雇用機会均等法によるセクハラ規定
女性に対するセクハラ規定は、1997年の男女雇用機会均等法の改正において整備されました。2007年には改正男女雇用機会均等法が施行され、女性に限定していたセクハラ規定を男性にも適用しました。
同法ではセクハラを、「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したり抵抗したりすることによって解雇、降格、減給などの不利益を受けることや、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること」と規定しています。
 
●パワー・ハラスメント(パワハラ)
パワー・ハラスメントは、職場内での地位や権限を利用したいじめや嫌がらせのことを言います。相手の人格と尊厳を侵害する言動を継続的に与えて、就労環境を悪くさせる言動が当たります。パワハラには法的な定義はありませんが、近年、社会問題化したことで国や公的機関による啓蒙や対策が進み、企業よる防止や対処の取り組みが求められるようになりました。
 
○「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」による定義
厚生労働省が立ち上げた「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」の2012年の報告では、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」としています。
 
●モラル・ハラスメント(モラハラ)
モラル・ハラスメントは、言葉や態度で繰り返し相手を攻撃する精神的な暴力のことを言います。職場に限らず、家庭や学校などあらゆる場面で行われるハラスメントです。
フランスの精神医学者が1998年に刊行した著書の中で取り上げたことで注目を集めるようになりました。日本では、家庭内の夫婦間での暴力であるDV(ドメスティック・バイオレンス)が社会問題化した際、家庭内の配偶者に対して、言葉や行動、態度によって精神的苦痛を与えるモラハラが認知されるようになりました。現在、職場におけるモラハラについては法的な定義はありません。
 
○パワー・ハラスメントとの違い
パワー・ハラスメントが、職場上の地位や人間関係の優位性によって、例えば上司から部下へ行われるのに対して、モラル・ハラスメントには、職場での優位性に関係なく行われるとされています。
 
●マタニティ・ハラスメント(マタハラ)
マタニティ・ハラスメントは、職場の主に女性に対して、妊娠・出産・育児休業などを理由に、解雇、雇い止め、降格するといった不利益な取り扱いをすることをはじめ、妊娠などに対して上司や同僚が嫌がらせの言動をすることがマタハラに該当します。
 
マタハラという言葉では法的な定義はされていませんが、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法によって、事業者による「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」と「育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止」が規定されています。
さらに、2017年の同2法の改正により、事業者は「上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産等をした女性労働者の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること」と「上司・同僚からの育児・介護休業等に関する言動により育児・介護休業者等の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること」が規定されるようになりました。
 
●アカデミック・ハラスメント(アカハラ)
教育機関、主に大学で行われる嫌がらせ行為のことを言います。大学の教員や学生などの構成員が、教育や研究上の権力を濫用して、他の構成員に対して不当な言動を行って、職務遂行上の不利益を与えるなど精神的・身体的な損害を与えることです。
 

■セクシュル・ハラスメントとなる言動や発言の事例

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厚生労働省の指針によると、職場におけるセクシャル・ハラスメントには、対価型セクシャル・ハラスメントと、環境型セクシャル・ハラスメントの2つのタイプがあります。言動や発言例には次のようなものがあります。
 
●対価型セクシュアル・ハラスメント
職務上の地位を利用して、性的な言動を行い、それを拒否した人に対して解雇や降格などの不利益な取り扱いをするタイプのセクハラです。
 
・事業主が「自分と付き合わないと会社を辞めさせるぞ」と言って性的な関係を迫ったが拒否されたので解雇した。
・上司が部下に対して「私の言うことを聞かないと人事考課の評価を下げるぞ」と性的な関係を要求した。
・営業車で移動中、上司が部下の腰や腕に触ったが、拒否されたため部下に不利益な配置転換を行った。
・学校で教員の立場を利用して、学生に性的な関係を迫った。
など。
 
●環境型セクシュアル・ハラスメント
性的な関係を要求する相手が具体的にはいないものの、性的な言動により働く人を不快にさせ、職場環境を悪化させるタイプのセクハラです。
 
・「仕事は進んでいるか」と気遣うようなことを言いながら、しつこく肩などの体を触る上司がいるため、部下が苦痛に感じている。
・忘年会で「何か面白いことをしろ」と、男性従業員に裸踊りを強要する。
・「恋人はいるの?」「子どもはいつ生まれるの?」と、恋愛経験やプライベートのことをしつこく聞く先輩従業員がいる。
・特に業務上の用事があるように思えないのに、異性に対して執拗にメールを送る。
など。
 
 

■パワー・ハラスメントとなる言動や発言の事例

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パワー・ハラスメントには、6つの行為類型があり、言動や発言例には次のようなものがあります。
 
●身体的な攻撃(暴行・傷害)
・上司が部下に対して、「こんなこともできないのか」と言って書類を顔にたたきつけたり、顔を机の上に押し付けたりする。
・部下が上司に「企画書の内容が良くないと」怒鳴られ、丸めた企画書で頭を殴られた。
 
●精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
・同僚のいる前で、「猿と同じ程度の脳みそだから仕事ができないんだ」と上司から無能扱いする発言をされた。
・会議中に発言をしようとすると「アホは黙っていろ」などと制止され、侮辱された。
 
●人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
・仕事のやり方について上司に進言したところ、それ以来、必要な業務資料が回覧されなくなった。
・出勤後、先輩社員や上司に話しかけても集団で無視される。
 
●過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
・退勤時間の直前にメールで「今日中にこのデータ入力をしてくれ」と、徹夜してもこなせない量の業務を与えられた。
・長期療養で休職から復帰後、それまで担当外だった他の部署の業務を割り振られるようになった。
 
適切な仕事の割り当てをせず、自分の気分次第で過大な要求を押し付けたり、嫌がらせ目的でその人の能力が発揮できない過小な仕事しか与えなかったりするのもパワハラです。どちらも被害者の労働意欲をそぎ、職場にいづらくさせてしまいます。
 
●過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
・営業中に軽い接触事故を起こした後、怒った上司に会社の庭の草むしりだけをするよう命じられた。
・上司に、「お前はもう仕事をしなくていい」と言われ、業務がなく放置されている。
 
●個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
・有給休暇を取って旅行へ行こうとしたところ、上司から「誰と行くの?」「どのホテルに泊まるの?」としつこく聞かれ、有休の取得も思うようにできなくなった。
・部下が、上司に「お前の携帯電話を見せろ」と言われて、プライベートのチャットを見られたり、私物を保管してあるロッカーを勝手に見られた。
など。
 
 

■モラル・ハラスメントとなる言動や発言の事例

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モラル・ハラスメントの言動や発言例には次のようなものがあります。
 
・職場で「あいつは生意気だ」と言って継続的に無視する。
・上司や部下という立場に関係なく、特定の人に仕事や必要な情報を与えない。
・職場で、わざと本人に聞こえるように嫌みや悪口を言う。
・業務上必要な決裁書類や休暇取得申請の処理をわざと遅らせる。
・頼まれた業務をしない。
・中途入社した社員に仕事のやり方を教えない。
など。
 
 

■アカデミック・ハラスメントとなる言動や発言の事例

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アカデミック・ハラスメントの言動や発言例には次のようなものがあります。
 
●研究・教育・修学の妨害
・教員が学生に対して、正当な理由なく、研究や教育上の指導をしない。
・文献・図書や研究機器類を使わせず、研究の遂行を妨害する。
・必要がないのに、休日や深夜の研究や指導を強要する。
・実験費用を不当に学生に負担させて、研究費は別のことに充てる。
・アルバイトをしたという架空の書類を作るのに協力させ、空バイトや空謝礼を強要する。
・「結婚したら研究者としては失格だ」などと結婚と学問の二者択一を迫る。
など。
 
 

■企業のハラスメント対策への取り組み事例

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厚生労働省が、働きやすい職場環境形成事業として2016年に発表した「職場のパワー・ハラスメント対策取組好事例集」には、調査対象の企業が効果があったとしている企業のハラスメント対策の事例が挙げられています。これによると、企業の取り組みとしては主に「相談窓口の設置」、「ハラスメント防止の研修の実施」、「アンケートなど継続的な実態調査」が多い傾向にあります。
具体的には次のような取り組みをしている企業があります。
 
・なんでも相談できる仕組みを1つに限定しないで多面的に設けている。
・丁寧な相談窓口を目指し、相談者本人の信頼を獲得するよう心がけている。
・毎年、ハラスメントに関するアンケートを実施して実態把握を10年継続、分析結果を全社に公表してフル活用している。
・経営幹部や全管理職にハラスメント防止のための研修受講を必須要件としている。
・社内のハラスメント意識調査の結果を生かし、ハラスメントの判断基準を「見える化」。社員が自分事してとらえるようになった。
 
●国や公的機関のハラスメント対策への取り組み
企業のハラスメント対策には、厚生労働省による指針や各種ガイドライン、相談窓口の設置や啓蒙活動が大変参考になります。次のような窓口などで発信されている情報も参考にすると良いでしょう。
 
○総合労働相談コーナー
各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内など380か所にある相談窓口です。事業主、社員どちらの相談も受け付けています。予約不要で、利用は無料です。
 
○みんなの人権110番
法務局による相談電話窓口です。パワー・ハラスメントなど人権問題についての相談を受け付けています。電話のほか、インターネットでも相談を受け付けています。
 
○職場のトラブル相談ダイヤル
全国社会保険労務士連合会が開設している窓口です。職場のトラブルについて、専門家の立場で相談を受け付けています。事業主、社員どちらの相談も受け付けています。
 
○Webサイト「あかるい職場応援団」
厚生労働省の委託事業として開設されたサイトです。職場のパワーハラスメント問題の予防・解決に向けて、各種情報発信が行われています。社員向けをはじめ、管理職、人事担当向けの資料なども用意されています。
 
 

ハラスメント事例を確認した後は対策の体制づくりから始めよう

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各ハラスメントの概要と具体的な事例についてご紹介しました。特に「セクシャル・ハラスメント」「パワー・ハラスメント」「モラル・ハラスメント」「マタニティ・ハラスメント」の4つは、企業としての対策を法的に、あるいは社会的に求められていると言えます。
ハラスメント問題を放置すると、業務遂行の低下や社員のモチベーション低下、企業のイメージダウンやモラルダウンを招くほか、訴訟リスクが発生する恐れもあります。企業と社員が相互に協力しながら、働きやすい職場環境づくりを目指すことで、ハラスメントを起こさない会社をつくることができるでしょう。