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時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得促進、労働時間把握の義務化など、「働き方改革関連法」にて、長時間労働が問題視されています。従業員の健康問題や企業の生産性にも影響する、長時間労働について考えてみましょう。 

■日本企業の労働時間

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●長時間労働とは
一般的に「長時間労働」と言われていますが、厚生労働省としては、明確な定義をしていません。では、どれくらいの時間が該当するのでしょうか。2017年から厚生労働省が「労働基準関係法令違反に係る公表」として違法な長時間労働を行っていた企業の基準としていたのは、月80時間の労働時間でした。
 
また、日本の労働時間は海外に比べて長いとも言われていますが、独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、2016年の日本の年間総実労働時間は1,713時間となっています。他の主要国をみるとアメリカ1,783時間, イタリア1,730時間, イギリス1,676時間,スウェーデン1,621時間, フランス1,472時間, ドイツ1,363時間となっており、実は日本と海外の労働時間はさほど差がないことがわかります。日本の労働時間について詳しくみてみましょう。
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●日本の労働時間の現状
日本の年間総労働時間は、1988年の改正労働基準法の施行を機に減少しています。しかし、2017年2月に厚生労働省が作成した「長時間労働対策」を見てみると、一般労働者の総実労働時間はほぼ横ばいで変化が見られないことがわかります。しかし、平成16年頃からパートタイム労働者比率が高まっており、かつパートタイム労働者の総実労働時間は減少傾向です。すなわち、時間単位や日単位で働くパートタイム労働者が増加し、その影響で全労働者の一人あたりの労働時間は減少したものの、一般労働者の労働時間は変化が見られないということになります。
 
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一方で、週の労働が60時間以上の人は10%弱存在し、恒常的に長時間労働をしています。業種別には2015年の時点で、運輸業・郵便業が18.3%と最も多く、次いで建設業が11.5%、教育・学習支援業が11.2%となっています。
 
●日本の労働時間に関する取り組みと「働き方改革」
日本は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護の両立に伴う働き手のニーズの多様化など、「働き方」に関して見直す状況に直面しています。このようななか、政府は生産性向上とともに、就業機会の拡大や働く意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要と考え、長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現など多様な働き方を目指す「働き方改革」に取り組んでいます。日本で定められている法令や制度のポイントをおさえておきましょう。
 
○労働基準法
1947年(昭和22年)に、労働条件について最低基準を制定しています。日本の労働時間に関しては下記のとおりです。
 
・労働時間の原則・・・1週40時間、1日8時間
・時間外・休日労働・・・労使協定の締結
・割増賃金・・・時間外・深夜2割5分以上、休日3割5分以上
 
1日および1週間の最長労働時間、休日日数が法律で決められています。原則としては、この時間を超えて労働させてはいけないということになっています。
 
○36協定(労働基準法第36条)
上記のように、労働基準法では、労働時間や休日日数が定められていますが、これらを超えて、会社が時間外労働または休日労働をさせるには、あらかじめ労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出をしておく必要があります。労働基準法第36条に時間外労働協定についての定めがあることから、一般に「36(サブロク)協定」と言われています。
 
○労働基準法の改正
長時間労働の抑制を目的とした労働基準法の一部を改正する法律が第170回国会で成立し、労働時間や働き方について見直されています。2019年4月から大企業への施行がされ、中小企業への適用は2020年4月からとなります。
 
<法改正のポイント>
・時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間
・時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満、2~6か月平均80時間以内
・原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月までです。
・法違反の有無は、会社で定めた「所定外労働時間」ではなく、「法定時間外労働時間」の超過時間(法定労働時間の1日8時間・1週40時間の超過時間)で判断
 
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○特定高度専門業務・成果型労働(高度プロフェッショナル制度)
長時間労働の抑制を目的とした労働基準法の改正ですが、金融商品の開発者や、ディーリングアナリスト、コンサルタント、研究開発に携わるなどの高度な専門知識を持ち、一定の年収(1075万円以上)がある人は時間外・休日・深夜の割増賃金の支払い対象から除外される制度が新たに設けられ、2019年4月1日から施行されます。この「高度プロフェッショナル制度」の目的は、自律的で創造的な働き方を希望する人々が、高い収入を確保しながら、メリハリのある働き方をできるよう、本人の希望に応じた自由な働き方の選択肢を用意するということです。そのため、制度の適用には、本人の同意が必要となり、企業は対象者の「健康管理時間」を把握することが求められます。また高プロ対象者となると、残業や深夜・休日労働をしても割増賃金が払われなくなります。 
 

■長時間労働が引き起こす問題点 

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●健康問題
長時間労働はうつ病などのメンタルヘルス不調の要因と考えられるだけでなく、脳・心臓疾患の発症との関連が強いという医学的知見が得られています。
厚生労働省では、2002年から過重な仕事が原因で発症した脳疾患や心臓疾患、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害について、「業務上疾病」と認定し、労災保険給付を決定した支給決定件数を公表しています
 
○脳・心臓疾患、過労死などの労災
請求件数は840件で、前年度比15件の増となりました。2017年度の脳・心臓疾患の請求件を業種別に見ると、1位は「運輸業・郵便業」188件、2位は「卸売業,小売業」115件、3位は「建設業」112件で、上記「日本の労働時間の現状」でご紹介した労働時間の長い業種「運輸業・郵便業」「建設業」と重なります。
<脳・心臓疾患 請求件 業種別>
1位 運輸業・郵便業(188件)
2位 卸売業,小売業(115件)
3位 建設業(112件)
 
○精神障害
2017年度の精神障害に関する請求件数は1,732件で前年度比146件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比23件増の221件でした。どちらも年々増加傾向にあります。
 
●長時間労働と生産性
従業員一人あたりの生産性は大きな課題です。一人あたりの労働時間が短い国ほど、労働生産性が高く、2015年時点のOECD諸国のなかで最も一人あたりの労働時間が短いドイツの総労働時間は1,300時間でした。これは日本の総労働時間の約80 %になります。一方、労働生産性を見てみると、ドイツは日本の水準を50%近く上回っています。内閣府によると、「一人あたりの労働時間が10%減少すると、一時間あたりの労働生産性は25%高まる計算になる」と言われています。また、生産性を高めるには、従業員のモチベーションをアップさせることが関係してくるとも書かれています。
 
 

■長時間労働が起きてしまう原因(改善されない原因)

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長時間労働が起きてしまう原因としては、さまざまなものがあります。「社員」「管理職」「会社」に問題を分類して、考えてみましょう。
 
●社員における原因
会社や管理職は長時間労働について問題意識を持っていても、個々の社員が長時間労働について意識を持っていなければ、問題は解決されません。またリスクについて理解していたとしても、自分は大丈夫という意識で長時間労働をいとわず働いているという人もいます。一時的な忙しさはしかたがないとしても、長時間労働が続くと、突然疲労が出てくることがあります。長時間労働が続くと、睡眠時間が短くなり、疲労やストレスが蓄積しているということを会社側が社員に周知することが大切です。
 
●管理職における原因
会社に働き方や休み方の制度がつくられていたとしても、部署で機能していないとすれば、社員は利用できません。また管理職が部下の仕事をマネジメントできていない状況では、社員は休みたいときに仕事を預けることができず、結局仕事を行うことになります。対策としては、管理職が部署内の仕事を把握し、マネジメントの研修などを受けて、社員の業務の効率化と適正化を図る必要があります。
 
●会社における原因
スタートアップ企業などでは、長時間労働を是正するためのしくみや体制ができていないということもあります。主に次のようなものが原因として挙げられます。
 
・人手不足(業務過多)
・管理職や従業員の意識不足
・従業員がどのような働き方を望んでいるか会社が把握できていない
・早く帰りにくい、休みを取りにくい風土
・社内での長時間労働に向けた体制や取組みの不足
 
まずは、社内の状況を把握することが不可欠です。詳しい状況や意見を把握するために、衛生委員会に現場の社員も入れて話し合うことが有効です。そして、社員が働きやすい制度やしくみをつくり、その内容を社員に周知しましょう。
 
 

長時間労働削減のための取り組み・対策

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政府は、長時間労働を削減するために、長時間労働削減推進本部を設置し、さまざまな取り組みを行っています。厚生労働省が、労働基準法等の労働基準関係法令に違反した企業名を「労働基準関係法令違反に係る公表事案」で公表しているのもその一つです。
また、同省では長時間労働の改善に役立つ情報などを提供している「働き方・休み方改善ポータルサイト」(https://work-holiday.mhlw.go.jp/)なども作成しています。