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感情労働は近年多くの職種に必要となっています。感情労働が必要とされる職種の従業員を抱える企業は、日々仕事に励む従業員を適切にケアしなければなりません。そこで今回は、企業や人事担当者が知っておきたい感情労働の課題や、企業が取り入れるべき対策をご紹介します。
 

■感情労働とは

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感情労働とはどういった労働で、どのような職種が該当するのでしょうか。まずは感情労働の定義について確認しましょう。
 
●感情労働とは
感情労働とは、自らの声や表情あるいは身体動作によって、他者(顧客)の感情を変化または維持させるために、労働者自身の感情を抑圧して労働することです。他者(顧客)の感情をコントロールするために、労働者自身の自発的な感情の発露を調整する必要があるため、精神的な消耗が激しい労働といえます。
 
感情労働という概念は、アメリカの社会学者であるアーリー・ラッセル・ホックシールドが提唱しました。著書の『管理される心――感情が商品になるとき』は1983年に発表されましたが、和訳されたのは2000年のため、日本で感情労働という言葉が広まったのは2000年代になってからです。
 
●感情労働が必要とされる職種とは
特に以下の職種で感情労働が求められるといわれています。感情が労働内容に大きな影響を及ぼす職種に必要とされています。
 
〇客室乗務員(CA)
上記でご紹介したホックシールドは、客室乗務員に対するインタビュー調査を実施することで、感情労働を定義づけしました。客室乗務員は、明るい感情を作り出して乗客に接することが求められます。
 
〇医師、看護師
近年感情労働の側面が強まっているのが医師や看護師といった医療従事者の仕事です。患者の権利意識が高まりQOL(生活の質)を重視するようになったことに伴い、医療現場でも感情労働が必要とされるようになりました。医師も看護師も、患者との密なコミュニケーションが要求されています。
 
〇コールセンタースタッフ
顧客に苛立ちや怒りといった感情をぶつけられることが多いコールセンターのスタッフの仕事も、感情労働です。理不尽なクレームに対しても自身の感情を抑え、丁寧に対応することが求められます。
 
〇介護士
利用者を適切にケアする必要がある介護士などの福祉職も感情労働に含まれます。
 
〇教師、講師
自身の感情をコントロールしたうえで生徒と接する必要のある教師や講師などの仕事も感情労働のひとつに挙げられます。
 
その他、対人コミュニケーションが必要不可欠なショップ店員やホステスなどの接客業、そして専門家として相手に安心感を与える必要があるカウンセラーの仕事なども、感情労働に分類される職種です。
 
例として挙げた職種に限らず、近年は多くの仕事が感情労働に当てはまります。これはサービス産業のシェア率が年々拡大していることが要因です。サービス産業は基本的に対人コミュニケーションが伴うため、程度の差はあっても感情労働が必要になるケースが多いものです。今やサービス産業は雇用のシェアのうち7割程度を占めるので、多くの従業員が感情労働に従事しているのです。
 
これだけ多くのシェアを占める感情労働は、高度な感情コントロールを必要とし、精神的な消耗が激しい労働です。それゆえ、感情労働を行う従業員の抱える課題も多いものです。人事担当者はその課題をしっかりと把握する必要があるといえます。感情労働を行う従業員が抱える課題はどんなものなのか、下記で詳しく見ていきましょう。
 

■感情労働を行う従業員が抱える課題

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感情労働を行う従業員が抱える課題を確認してみましょう。
 
●仕事でのストレスが解消しにくい
感情労働は自身の感情のコントロールを必要とするため、精神的に消耗しやすいのが特徴です。過剰な感情労働によって自分が本来持っているはずの自然な感情が損なわれる可能性があり、感情の抑制はストレスの原因となります。感情労働が続くと不安や不眠状態に陥るという調査結果もあり、職場を離れた休息の時間にも影響をおよぼします。仕事上のストレス解消が課題とされています。
 
●バーンアウト
バーンアウトとは、極度の身体的疲労と感情の枯渇をおぼえる症状のことです。燃え尽きたようにやる気をなくすことから、燃え尽き症候群とも呼ばれます。相手のためを思って感情労働に没頭するあまり、尽くしすぎて従業員がバーンアウト状態になってしまうことも珍しくありません。バーンアウト状態になることで、離職やサービスの質の低下などを招くリスクがあります。
 
●仕事に対する満足度の低下
感情労働は、相手に配慮することで自己肯定感を高め、仕事への満足度を高めるポジティブな側面もありますが、実際には仕事に対する満足度を低下させるという研究結果もあります。感情労働では、その場にふさわしくない感情は抑制する意識的な努力が必要になります。これがイライラ感や疲労感といった複数のストレス反応に影響をおよぼし、心理的負担の要因になっているのです。その結果、仕事に対する満足度が低下し、離職やサービスの質の低下につながります。
 
感情労働を行う従業員に対するケアは、企業にとって急務といえるでしょう。以下の項目では企業が取り組むべきケアの施策と、その実例をご紹介します。
 

■感情労働を行う従業員に対して企業がすべき対策

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感情労働は高度な感情コントロールを必要とし、精神的な消耗も激しい労働形態です。そのため企業には、感情労働を行う従業員をケアするための適切な対策を取ることが求められます。企業がどのような対策を取ればよいのか、具体的な方法を確認しましょう。
 
●企業がすべきケアと対策
感情労働に励む従業員がストレスを溜め込みすぎないよう、企業はメンタルヘルス対策を取り入れて従業員をケアすることが求められます。
 
○ストレスチェック制度の導入
労働者数50人以上の事業場で行うことが義務付けられているストレスチェックの結果を確認し、社員のストレス状態を把握することは有効な対策の1つです。感情労働によって従業員がどれほど精神的に疲労しているか、正しく知ることが重要です。
 
○社内コミュニケーションの活性化
周囲の従業員と十分なコミュニケーションを取ることでも、精神的疲労を軽減できます。特にチームを組んで仕事をしている場合は、上司や同僚から支援や指導を受けられると、感情労働に伴う心理的負担は軽減されます。
 
○チーム体制の整備
いつでもチームの仲間に相談できる体制をつくっておくことも対策の1つとなります。相談して愚痴を吐き出したり共感を得たりして心が落ち着き、ストレスを軽減させることが可能です。マネジメントする立場にいる従業員は、チームがきちんと機能するよう常に配慮する必要があります。
 
○働きがいのある会社をつくる
働きがいのある会社をつくることで仕事への満足度が高まります。例えば、従業員の意見に耳を傾けて経営計画や制度整備に反映させたり、スキルや知識が身につく研修を行ったりすることで、従業員がやりがいを持って仕事に励むことが可能です。従業員がやりがいを持てる会社であれば、感情労働の課題である仕事の満足度低下に伴う離職やサービスの質の低下を避けられます。
 

適切なケアや対策を行い、感情労働をする従業員が働きやすい職場を目指す 

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感情労働は、感情を調整して仕事をするという高度なスキルを要します。また感情労働がストレスの原因となりうるにもかかわらず、それが正しく認知されていないこともあります。まずは感情労働に対する正しい認識を社内に普及させることが必要です。そして、ケアのための施策を行い、従業員が働きやすい職場を目指しましょう。