カテゴリー: 人事基礎知識 労務

休業手当とは、企業の責任によって社員が仕事をできなかった場合に、企業が支払う手当です。今回は、休業手当の定義や休業補償との違い、種類や対象者、そして支払いや条件ついて解説します。

■休業手当とは

入院する社員のイメージ

「休業手当」は、どのような手当なのか確認しましょう。

●休業手当の定義

休業手当に関しては、労働基準法第26条で、下記のとおり定められています。

「労働基準法第26条」

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

つまり本来は仕事をする日だったものがなくなることが「休業」であり、その休業理由が使用者である企業の都合や責任で発生した場合に支払われる手当を指しています。休業手当は「賃金」です。ただし、以下の期間は休業期間の対象外となります。

 

・休業期間中の休日(公休日や就業規則で定められた休日)代休日

・解雇予告期間中

・使用者(企業)が社員への労務拒否した場合

●休業手当と休業補償の違い

「休業手当」と似た制度に「休業補償」というものがあります。この2つはどのような違いがあるのでしょうか。

休業手当は労働基準法第26条で定められており、前述したように「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合に支給される手当(賃金)です。受給に際して社員の申請などは不要ですが、賃金のため課税対象となります。

それに対し、休業補償は労働基準法第76条で定められており、「療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない」と定められています。休業補償は「仕事ができないことに対する補償」のため、賃金には該当しないため、課税対象外です。ただし、受給するには社員が申請する必要があります。

●「休業」の種類

法律上、労働者が「休業」できると定められている場合でも、その全てに「休業手当」を支給しなければならないわけではありません。また、労働者に金員が支払われる場合でも、休業手当の枠外である「雇用保険」などから支払われる場合もあります。

○産前産後期間の休業

妊娠した女性は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合14週間前)に休業を請求でき、企業は休業の請求があった場合には必ず休業させなければなりません(労働基準法第65条)。この場合の「休業」は、休業手当の支給について定める「使用者の責に帰す」(労働基準法26条)休業ではないため、休業手当の支給はありません。

休業中の賃金は企業の就業規則などにより変わります。有給とする規定がない場合は無給となります。無給の場合や減額の場合は、所定の要件を満たすことで、産休中は健康保険から「出産手当金」、育休中は雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。

○業務上での負傷の治療での休業

業務中にけがをして働けなくなってしまった場合は、休業補償(労働基準法76条1項)を受けることができます。また、けがや病気になってしまった原因が、企業側の安全配慮義務違反にあれば、損害賠償(民法709条)を請求できます。休業補償は働けなくなったことに対する「補償」という性質があるのに対し、民法709条に基づく請求は不法行為に対する損害賠償となります。

○育児や介護の休業

育児や介護と仕事を両立できるようにと労働基準法とは別に「育児・介護休業法」が定められています。「育児休業」は、1歳に満たない子を養育するためにする休業であり、父母問わず1歳未満の子を養育する労働者(社員)からの申し出があれば認められます。介護休業では「要介護状態(負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族」が配偶者、父母、子供、配偶者の父母がいる場合、労働者(社員)からの申し出によって認められます。

育児・介護による「休業」の場合も、休業手当の支給について定める「使用者の責に帰す」(労働基準法26条)休業ではないため、休業手当の支給はありません。また、企業の就業規則などで規定がないと賃金は支払われませんが、条件を満たせば雇用保険から「育児休業給付金」や「介護休業給付」の支給を受けることができます。

「休業手当」と「休業補償」は似ているので注意が必要です。自社の規定では、どのようになっているのか、しっかりと確認して対応できるようにしておくことが大切です。

■休業手当の対象となる「労働者」とは

労働基準法26条は休業手当を「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合「労働者」に支払うと定めています。まず、同条の定める「労働者」について見てみましょう。

●ノーワーク・ノーペイの原則

休業手当を支給すべきか否かは「ノーワーク・ノーペイの原則」に則って判断されます。「ノーワーク・ノーペイの原則」とは、労働者が労務を提供しない場合、使用者にはその労務に対応する賃金の支払い義務がないという原則を指します。

使用者と労働者は原則として「労働契約」という双務契約(労働契約法6条)を締結しています。そして、労働者は労務の提供を終えない限り、使用者への賃金の請求権も生じません(民法624条1項)。このことから、上述したノーワーク・ノーペイの原則が発生します。ただし、その例外として、「使用者の責めに帰すべき事由」により労務の提供ができなかった場合については、公平性の観点から賃金請求権が認められます(民法536条2項、労働基準法第26条)。

●「休業手当の支給対象となる労働者」か迷いやすいケース

先に述べた「ノーワーク・ノーペイの原則」は企業と社員の労働契約が起点になります。具体的なケースを挙げながら解説していきます。

○内定者の場合

まず、いまだ本格的に働き始めていない「内定」段階でも、労働契約を締結しているのか否かが問題となります。

判例では、新卒学生の採用内定の法的性格について「就労の始期付解約権留保付労働契約」が成立したものと解しています( 昭和54年7月20日 最高裁二小判決 )。この見解に従えば、企業が内定承諾書のような書類を受領した時点で、内定者と企業は条件付きの労働契約を締結したと言えます。

そして、ケースごとに「ノーワーク・ノーペイの原則」の例外である「使用者の責めに帰すべき事由」(民法536条2項、労働基準法第26条)の存否の問題となります。たとえば、内定している社員に対して、自社の業績が悪化したことなどを理由に採用予定の社員を予定通りの日から勤務を開始させることができずに自宅待機を命じたようなケースでは、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当することになり、休業手当の支給が必要となります。

○派遣社員の場合

派遣社員は、働いている「派遣先企業」ではなく「派遣元企業」と労働契約を結んでいます。したがって、派遣先企業にとっては、休業手当を支給すべき「労働者」には該当せず、派遣元企業にとっては、労働契約の相手方として休業手当を支給すべき「労働者」に該当します。

 

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○アルバイトやパートタイマーの場合

ノーワーク・ノーペイの原則の確認にあたっては、あくまで自社との労働契約の存否が問題であり、契約期間の有無や社員としての正規・非正規が問題となるわけではありません。アルバイトを雇用するにあたっても労働契約は締結されるため、アルバイトも企業にとっては、労働契約の相手方として休業手当を支給すべき「労働者」に該当します。

「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、公平の観点から認められるのが休業手当です。雇用関係に関係なく、すべての労働者が該当します。次に、ノーワーク・ノーペイの原則の例外として休業手当を給付すべき「使用者の責に帰す」事由を見てみましょう。

■休業手当を支給すべき「使用者の責」とは

休業手当について相談する従業員のイメージ

ここからは、労働契約が存在することを前提に、休業手当の支給について定める労働基準法26条の要件「使用者の責に帰す」該当性の検討を通じて、休業手当支給の要否を考えます。

●地震や台風など災害によって出勤できない場合の休業手当

地震や台風などの自然災害は企業の都合ではなく、自然災害による不可抗力です。こうした場合は「使用者の責に帰すべき事由」には当たらず、企業に休業手当の支払義務は発生しません。

●病気や事故によって出勤できない場合の休業手当

社員が病気や事故によって出勤ができないという場合は「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません。よって、通常休業手当は支給しないケースと言えます。ただし、交通事故など加害者がいてけがをし、出勤ができなくなった場合は「休業補償」を受け取れる可能性があります。この場合、支払い元は社員が所属している企業からではなく、事故の加害者が加入している保険組合から支払われることになります。

●1日の一部だけを休業させる場合の休業手当

この場合は労働基準法第26条を原則とした上での特殊な事例と言えます。たとえばパートタイマーの勤務時間について、以前は6時間だったところ企業側の都合で当面4時間に短縮するという決定がされた場合を考えてみましょう。

休業手当が支給される場合、労働基準法第26条では企業は休業期間中、当該社員にその平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないとしています。仮にパートタイマーが時給1,000円で6時間勤務だとすると、企業側の都合で4時間となった場合平均賃金である6,000円の100分の60である「3,600円=休業手当」になります。そして、パートタイマーは4,000円支給され、休業手当を400円上回っています。このケースでは、休業手当の支給は不要と判断されます。

企業の状況や、従業員の状況により、さまざまなパターンが発生します。休業手当に該当するはずなのに、支払いが行われない場合、企業にはペナルティが課せられます。休業手当の支給について、判断に困る場合は、専門家や公共の相談窓口に確認してみましょう。

対象者を見極め、休業手当の支給を行う

休業手当の定義がしっかりとした職場のイメージ

休業手当の定義や休業補償との違い、休業手当の種類や対象者、休業手当を支給するケース、支給しないケースを解説しました。休業手当を支給すべきかどうかを判断するには、休業の理由が労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかと、「ノーワーク・ノーペイの原則」に当てはまるか否かに着目してみましょう。

 

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