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政府が掲げる働き方改革における長時間労働の是正は政策課題の柱の一つとなっています。工場では週あたりの労働時間が50時間を超えた場合、限界生産性が大きく低下するという調査データがあります。さらに、休日出勤があった翌週は、限界生産性がそれ以上に低下するということもわかっています。また長時間労働が原因で、メンタル不調による休職や退職者も存在します。今回は、生産性やメンタルヘルスに悪影響を及ぼす、長時間労働の原因と対策を紹介します。

■長時間労働の要因

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終身雇用や年功序列、ジョブローテーションなどさまざまな制度が複雑に絡み、現在の日本の雇用慣行は形成されています。したがって、長時間労働の要因も多岐にわたります。
今回は、従業員が自ら好んで長時間労働を続ける要因を「自発的要因」、労働市場や企業側の事由による長時間労働の要因を「非自発的要因」とし、企業・団体が長時間労働対策に至る背景をご説明します。
 
独立行政法人経済産業研究所が公表した「労働時間改革―鳥瞰図としての視点―」ではそれぞれの要因を下記のように説明しています。
 
●自発的要因
 
・ワーカーホリック
仕事が純粋に好きで長時間労働を全く厭わない従業員が存在します。ワーカーホリックという言葉を初めて使用した米国の作家オーツは「極端な働き者で、仕事を必要とする度合いが甚だしく過度になっている。」と表現しています。健康に害を及ぼすことをわかっていても仕事は止めることはできません。
 
・プロフェッショナリズム
ワーカーホリックに似ていますが、「専門職」としてのプロ意識が長時間労働の要因となっていることもあります。プロとして仕事をする以上、一定の水準以上の成果を求めた場合、労働時間は関係ないという信念に基づき仕事をします。
 
・金銭への欲望
所定外労働は割増賃金が発生することから、長時間労働をして残業代を増加させることで所得を増やそうする従業員が存在します。
 
・出世願望
評価や昇進機会を高めるための長時間労働が存在します。成果や能力を量的に証明することが難しい一方、労働時間や自己犠牲の顕示を成果や能力と結びつける考えがあります。日本能率協会従業員調査では残業時間が長い者ほど出世思考が強い傾向が見られます。また諸外国の例では労働時間と昇進確率に正の関係があることが確認されています。
 
労働時間や業務内容を確認するだけでは、自発的要因で長時間労働をしているのかを明確に理解することは難しいかもしれません。どのような理由で長時間労働が発生しているのかを把握するために、人事担当者や企業は従業員と良好なコミュニケーションを行うよう心がけましょう。
 
●非自発的要因
 
・職務の不明確さ
日本では、終身雇用や年功序列を前提にした日本独自の職能資格制度が運用されてきたことで、欧米と比べ職務範囲が明確に定義されていないケースが見られます。職務範囲が明確でないことにより、自らの仕事が終わっても同僚の仕事を手伝わなければならない雰囲気を感じ、帰りにくく長時間労働を行うことがあります。
 
・企業による削りしろの確保
雇用調整を行わなければならない事態に陥った場合、日本では、まずは所定外労働を削り、それから人員整理を行うという企業が多いものです。いざというときのために、その“削りしろ”である所定外労働を確保しておこうとする考えが長時間労働の要因となっていることがあります。
 
・自発的に長時間にわたり労働する従業員による影響
前述の“好んで長時間労働をする従業員”が上司となった場合、その上司と仕事をすることで、長時間労働に付き合わされる場合があります。
 
職務の不明確さや自発的に長時間にわたり労働を好む上司による影響などは、企業文化と深く結びついており、非自発的要因の是正も、必ずしも容易ではありません。次に、長時間労働のを解決するための対策を見てみましょう。
 

■長時間労働の対策

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「自発的要因」「非自発的要因」を見てきましたが、どちらにせよ、長時間労働は、生産性を下げ、健康面にも影響をおよぼすもので、日本の労働に関する大きな課題です。解決するための対策として、次のようなものが挙げられます。
 
●「自発的要因」における長時間労働の対策
「自発的要因」に対しては、長時間労働を抑制する職場環境の設計に加え、上司の評価項目の追加などの対策が効果的です。自ら好んで長時間労働を行う従業員に対し、長時間働くことができない環境や仕組みを用意するということももちろん必要ですが、長時間労働の是正の目的として、本人の健康確保を目的としているということを理解させることも必要です。
 
●「非発的要因」における長時間労働の対策
また、「非自発的要因」に基づく長時間労働への対策には、本人はどうすることもできないので、上司や企業による業務内容の見直しや根本的な見直しが必要となります。自発的要因とは異なり、社内での対策推進への理解を得やすい一方、対策の対象となる課題の抽出や選定、対策実行などの手間はかかることが予想されます。
 
従業員の意識を変え、手間もかかる長時間労働への対策ですが、しっかりと取り組まなければなりません。上記のような対策をとるとともに、会社のトップが長時間労働を行わないという強いメッセージを発し、ステークホルダーを巻き込んだ問題認識の共有と対策が必要となります。

長時間労働対策を行い従業員の健康を確保しましょう

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長時間労働の対策において成果を上げるためには、組織のトップが強いメッセージを発し、必ず変えるということを明確にしなければなりません。さらに、従業員とのコミュニケーションを通じ、自社における長時間労働の要因の把握が不可欠です。また、長時間労働の状況のもとでは、心身の健康にも影響があることがわかっています。長時間労働対策を行い、従業員の健康を確保しましょう。