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職場では、いろいろな人たちが働いています。性別も年代もさまざま。仕事は同じだとしても、悩んでいることや困っていることは異なります。それぞれの悩みに気づくためにも「ストレスチェック」を行うことは大切です。今回は、従業員の職場でのストレスと、職場で義務付けられているストレスチェックについてご紹介します。
 

■従業員のライフサイクルとストレス

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●職場のストレス要因
職場では多くのストレスが存在します。仕事の質や量、役割や地位についてのストレス。また、仕事を進めていけば、ミスや失敗で責任を感じることもあるでしょう。一人ですべての業務を完遂させるわけではない場合は、チームや他部署のメンバーとの対人関係で悩むこともあります。
 
職場のストレスについては、さまざまな研究が行われていますが、アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の職業性ストレスモデルでは、「職場のストレス要因」として、次のものが挙げられています。
 
<職場のストレス要因>
・職場環境
・人間関係
・仕事の責任感
・仕事のコントロール
・仕事の量的負荷
・仕事の将来性への不安
・交代制勤務
 
あくまで一例ですが、ある人にとっては些細なことと思えるような出来事も、別のある人にとってはストレスとなり得るものです。性格や状況により、職場にはストレスの要因になることが多数あるものと言えます。
 
●ライフサイクルとストレス
また「職場のストレス要因」は次のような要因によって、ストレス反応が強まったり、弱まったりします。
 
・年齢・性別や性格などの「個人的要因」
・家族からの要求やプライベートな悩みなどの「仕事外の要因」
・上司や同僚、家族などからサポートを受けることでストレスを軽減させる「緩衝要因」
 
これらの要因はライフサイクルによって変化していきます。ここからは、ライフサイクルとストレスとの関係を年代別に見てみましょう。
 
○20代:新入社員、若年従業員のストレス
 
<職場のストレス>
新入社員の場合、自由度が高かった学生生活から一転して、上司や同僚と協働で仕事を遂行することになります。チームの一員として、協調性や役割の遂行が求められるため、これまでの学生生活とは異なる人間関係や責任で葛藤する人もいます。
 
<仕事外のストレス>
社会人となり経済的、精神的に親の庇護から自立することになります。生活の基盤である衣食住はもとより、自身の健康の管理、お金の管理、知人・友人との交友関係など急激に環境が変化することになります。このような自身をとりまく環境の変化に、少なからずストレスを感じる人もいます。
 
○30代:青壮年従業員のストレス
 
<職場のストレス>
青壮年期の従業員は現場の第一線で活躍する人も多く、中堅社員として仕事の負担が増え、過重労働が問題になりやすい年代です。昨今は、自分自身の仕事の実績を上げることのほかに、部下の仕事のマネジメントも求められるプレイング・マネジャーが増えています。その結果として、この世代のメンタルヘルス不調や自殺の発生頻度が高くなっています。また、転職をして職場が変わるということも多い年代です。社風や仕事の進め方、評価制度の違いなどへの戸惑い、新しい職場での人間関係の問題などが発生しやすく、転職を機にメンタルヘルス不調に陥る社員も見られます。
 
<仕事外のストレス>
厚生労働省によると、平均初婚年齢は夫は31.1歳、妻は29.4歳。第1子出生時の母の平均年齢は30.7歳となっています。結婚・出産を迎えるこの年代は、家庭内での夫や妻としての役割や、親としての役割にともなうストレスも増えてきます。また独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査では、労働力としてカウントされる世帯の内、約2/3が共働き世帯であり、仕事と家庭との両立に多くの家庭が直面しています。
 
○40代:中高年従業員や管理職のストレス
 
<職場のストレス>
中高年従業員は、体力、記憶力、新しい環境への適応力が低下してきます。心身の機能の衰えに直面しながらも、一方で経験や実績を評価されて指導的立場につく人が増えます。管理職としては業績が求められますが、業績が上がらない、仕事内容が変わり不慣れでうまくやれない、部下を指導・管理できない、などの理由でストレスを感じ、メンタルヘルス不調に陥る人もいます。
 
<仕事外のストレス>
家庭では、子供が思春期に入り親子の関係性に変化が見られ、部活や受験などの対応に追われることになります。また、親の介護が必要になってくる年代でもあり、それにともなうストレスも増えてきます。家庭内の役割分担や協力が一層求められる年代です。
 
○50代:高年齢従業員のストレス
 
<職場のストレス>
高年齢者になると、反射神経機能や新しいことを憶える記銘力や記憶したことを思い出す想起力は低下します。また、新たな環境や問題への適応や、解決策を模索する、情報処理能力は、加齢にともない低下し、「できていたことができなくなった」ことでストレスを感じる人も増えます。
 
<仕事外のストレス>
親の介護や親族の死、自分の病気にともなうストレスも増えてきます。また子供の大学受験なども重なると経済的な負担が増してきます。自分自身の心身両面での健康管理が必要になります。
 
各年代で感じるストレスの要因は、社会的責任やライフサイクルの変化にともない変わってきます。
それぞれの年代にあったメンタルヘルス対策を行うことが必要です。
 

■ストレスによってひきおこされる病気

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上記で説明したような「職場のストレス要因」「仕事外の要因」「個人的要因」「緩衝要因」が融合し、ストレス反応が出現します。そして個人のストレス耐性の限界をこえると、健康障害が発生します。ストレスによりひきおこされる病気には、心理的な病気と身体的な病気があります。
 
以降は、ストレスにより発症しやすい病気や予測される従業員の状態について解説します。また、それらの病気を未然に防ぐ対策についても説明します。
 
●心理的な病気
ストレスが原因となる心理的な病気は、次のものが挙げられます。
・不眠症
・うつ病
・双極性障害
・気分変調障害
・適応障害
・社会不安障害
・パニック障害 など
 
これらの病気にかかると、気分の落ち込みや、やる気の減退など、さまざまな形でメンタル不調が生じます。また、人によっては外出することや、他の人と会話することなども困難になり、仕事どころか日常生活もままならない状態に陥る場合もあります。
 
さらに、症状がひどくなった場合は死を考えるようになり、衝動的に自殺する可能性が極めて高くなるので注意が必要です。心理的な病気は、その多くがストレスを起因としています。そのため、少しでもメンタルの不調を感じたら、原因となるストレスの軽減を図ることはもちろん、上司や産業医などに相談することを促したり、場合によっては病院で適切な治療を受けるよう指導したりすることが必要です。
 
●身体的な病気
ストレスが原因となる身体的な病気には、次のようなものがあります。
・十二指腸潰瘍
・過敏性腸症候群
・心筋梗塞
・片頭痛
・腰痛
・肩こり
・メニエール病
・慢性的な疲労
・持続的な痛み
・めまい
・吐き気
・難聴
 
これらの身体的な病気は、「すぐ治るだろう」「疲れがたまっているだけだ」などと自己判断しがちですが、なるべく早く医療機関への受診や、産業医へ相談をしましょう。ストレスと関係していると診断されれば、薬などの対処療法とあわせてストレス対策や生活の改善などの指導も行われます。 
 

■心の健康診断「ストレスチェック制度」

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病気にかかった本人は、ストレスが原因であると気づかないこともあります。そこで、客観的に現状を把握し、自分がストレスを抱えていることに気づかせるために、「ストレスチェック」を行うことが有効です。
 
●ストレスチェックが制度化された背景
平成29年の厚生労働省「労働安全衛生調査」によれば、仕事や職業生活で強いストレスを感じている労働者は58.3%にのぼります。また、精神障害による労災補償の請求件数は、前年度より146件増の1,732件、支給決定件数は前年度より8件増の506件となっています。そのうち、未遂を含む自殺者の請求件数は前年度より23件増の221件、支給決定件数は前年度より14件増の98件となっています。仕事や職業生活のストレスを原因とする労働者の精神障害や自殺が年々増加しているのです。
 
企業に任せたストレス対策や労働者のメンタル不調対策は後手に回っており、適切な対策が取られているとは言えませんでした。そのため、労働者の心身の健康を守るために労働安全衛生法が改正され、ストレスチェックが制度化。積極的な対策を義務付けることになりました。
 
●ストレスチェックを行う目的
ストレスチェックは主に「一次予防 メンタルヘルス不調となることを未然に防止する」ために行うものとして制定されました。「一次予防」とは、ストレスチェックを通して社員のストレスの程度を把握し、なおかつ労働者自身がストレスを抱えていることに気づかせます。また、その結果にもとづき、必要に応じて面接(指導)を行います。そこで浮かび上がった本人の心身状態や仕事、職場環境等の問題を改善し、労働者がメンタル不調に陥るのを防ぐのです。
 
●ストレスチェックの義務化
ストレスチェックは、常時50人以上の労働者を使用する事業場で毎年1回実施し、その結果を労働基準監督署に報告する義務があります。それを怠った場合、労働者50人以上の事業者は罰則(50万円以下の罰金)が適用されます。ここでいう労働者とは、正社員だけでなく、パートタイム労働者や派遣労働者も含みます。50人未満の労働者を使用する事業場においては、ストレスチェック制度は当分の間、努力義務とされています。労働者のストレスをはかり、メンタル不全を未然に防ぐためには、50人未満の事業場でも実施したいものです。
 
●ストレスチェックの項目
法定のストレスチェックでは、「職場のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3領域に関する項目について検査を行い、ストレスの程度を点数化して評価するようになっています。この条件を満たすのであれば、独自の質問項目を増やしたり、自由記述欄を設けたりしても構いません。ただし、独自に項目を追加する場合は、科学的根拠に基づいた項目でなければなりません。また、ストレスチェック実施者の意見の聴取や衛生委員会等での調査審議も行う必要があります。
 
厚生労働省ホームページでは「国が推奨する 57 項目の質問票」を掲載しています。チェック項目を確認して、適切に実施してください。
 

ストレスチェックでメンタルヘルスの未然の防止を

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さまざまな人が働く職場において、従業員はそれぞれストレスを抱えています。ストレスを感じる度合が高ければ、身体的・精神的な病気をひきおこしてしまいます。年に1度健康診断が義務付けられているように、ストレスチェックを活用して、心の健康診断を行いましょう。ストレスチェックは、メンタルヘルス不全を未然に防止するための仕組みです。人事担当者は、従業員のストレス状態を把握し、適切な対応を行えるようにしましょう。